酒は百薬の長という言葉があります。果たして、これは本当なのでしょうか?
結論から言うと、本当のことだと思わない方がいいです。
周りくどい言い方ですが、どういうことか説明していきたいと思います。
Jカーブ
Jカーブは有名な話なので聞いたことがあるかもしれません。
簡単に言ってしまうと、全くお酒を飲まないよりも適量の飲酒の方が健康に良いという説です。
実は実際に適量の飲酒を行うことで、特定の疾患に発症するリスクが少なくなることが挙げられます。
具体的には虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病、認知機能の低下などです。
この場合、飲酒量と発病リスクのグラフは以下のようになり、これをJカーブと言ったりします。
この適量な飲酒というのは具体的には一日に純アルコール量10~20gの摂取と言われています。
度数が7%の缶チューハイなら半分~1本くらいですね。
このJカーブは酒は百薬の長ということわざが正しいことを主張する際に用いられることが多いです。
一方、飲酒量と発症のリスクが初めから比例する場合もあります。例えば、高血圧、脳出血、がん、脂質代謝異常症などが当てはまります。
また、病気ではありませんが、自殺、暴力、交通事故などは飲酒と相関が見られるそうです。
これらは適量飲酒は特に関係なく、基本的には飲まない方が病気のリスクが低くなります。
図にするとこんな感じですね。
また、肝硬変も飲酒量と比例して、そのリスクが増えますが、飲酒量が多いほど、そのリスクの上昇量も大きくなります。
つまり、「酒は百薬の長」とは、ある側面では正しく、ある側面では誤っているとも言えます。
ことわざを信じるデメリット
正しいとも間違っているとも一概に言えないのなら、信じても信じなくてもいいのではないか、と思うかもしれませんが、実はこのことわざを信じることにはあるリスクがあります。
それは、「お酒は健康に良い」という誤解を生むかもしれないということです。
お酒を止めようとしている人に対して、「少量なら体にいいしさ」といったお酒を勧める人は案外と少なくありません。ごくまれな例ですが、お酒が好きでもないのに健康のために無理にお酒を飲む人もいます。
また禁酒や減酒を行う際にこの言葉が、飲酒の誘惑を強くしてしまうことがあります。
例えば、アルコール依存症になってしまい禁酒療法をしているとき、飲酒への欲求は必ず訪れます。欲求に立ち向かっているとき、心の中では「今まで頑張ってきたからちょっとぐらいいだろう」、「少しでも飲んだら歯止めがきかなくなってしまう」というような葛藤が出てきます。そのようなときに「少量ならば酒は体に良い」という情報を知っていたら、それが飲酒へのいざないになるとということもあるのではないでしょうか。お酒は健康にいいと思うのは飲酒欲求を助長しかねないため、そのようなことを思ってはいけないというわけです。
まとめると、
- 適度な飲酒は一部の病気のリスクを下げるが、基本的に飲酒量と病気のリスクは比例する
- お酒は健康に良い、という思い込みは禁酒や減酒の妨げになる恐れがある
といった感じですね。
お酒を飲むのが生きがい、お酒を飲むと人と仲良くなれる、といったようにお酒が重要な存在になっている人も少なくないと思います。だからこそ、いつまでも健康で飲んでいられるように、適度な付き合いを心がけていきたいですね。
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