私たちは何かを考えたり、行動したりするときにその前に見たり聞いたりしたものに影響を受けることがあります。このように、先行した刺激がその後の刺激の処理に無意識に影響を及ぼすことをプライミングと言います。また、先行する刺激はプライム刺激、プライマーなどと呼ばれたりします。
たとえば、ぶどう、リンゴ、バナナなどの果物の写真を見せられた後に「身の回りにある赤い物を答えてください」という質問を呈示された場合は通常よりもリンゴと答える人が多いのではないでしょうか。この場合、果物の写真はプライム刺激となり後の処理に影響を及ぼしたことになります。
プライミングの種類
プライミングは大きく直接プライミングと間接プライミングに分けることができます。
直接プライミング(反復プライミング)はプライム刺激が、後の処理で再生されやすくなるプライミングです。直接プライミングはさらに知覚的プライミングと概念的プライミングに分けることができます。
知覚的プライミングは知覚的要素によって引き起こされるプライミングです。例えば「リサイクル」という単語を見せられた後に「リ〇〇〇ル」という穴埋め問題を出されたら「リサイクル」と答えやすいといったものです。(他にも「リハーサル」、「リサイタル」といったようなものがあります)
概念的プライミングは概念的要素によって引き起こされるプライミングです。とある実験では、単語を呈示された後に単語の自由連想テストを行うと、呈示された単語を連想しやすかったそうです。(例:「リサイクル」という単語を呈示された後の自由連想テストで「環境保護」という言葉から「リサイクル」という言葉を連想しやすい)
間接プライミングは先行する刺激によって、他の概念が処理されやすくなるプライミングです。
例えば語彙判断のテストにおいて「パトカー」という単語がプライム刺激として提示された後だと、他の無関係の単語より「救急車」など連想しやすい単語の方が成績が良かったそうです。
なぜプライミングが起きるのか
プライミングが引き起こされる要因はいくつか主張されていますが、最も有力なのは活性化拡散によるものです。
人の記憶は関連した概念どうしがつながったネットワークのような形式で保持されているとされています。そのため特定の概念の情報が処理されると、それに関連した概念も活性化されます。このような現象を活性化拡散といいます。
活性化は短期的なものばかりではなく、時として数か月続くこともあるそうです。
日常生活におけるプライミング
相手に対する印象
プライミング効果で初めて会う人の印象が変わるかもしれません。ヒギンズという研究者たちが行った実験では、知覚課題を実験参加者に課した後、架空の人物に関する文章を読んでもらい、その人物に対して抱いた印象を尋ねました。知覚課題はポジティブな性格特性語を呈示されたグループとネガティブな性格語を呈示されたグループがありました。結果として、同じ文章を読んだのにも関わらず、ポジティブな単語を呈示された場合はポジティブな印象を、ネガティブな単語を呈示された場合はネガティブな印象を、もったそうです。
さらにのちの追試で、知覚課題において性格特性語が呈示される時間を100ミリ秒にして同じように印象を尋ねた結果、どのような単語が出たかをしっかりと報告できなかったのにも関わらず、否定的な単語が多く呈示された条件では否定的な印象をもつようになったのです。 つまり潜在的な記憶によるプライミング効果が印象形成に影響を与えたのです。
自分自身の行動
私たち自身の行動もプライミングの影響を受けることがあります。
例えば、ある実験では老人を連想するような単語を呈示されると、歩く速度が遅くなるったそうです。
その他にもF1レーサーをプライミングすると読書のスピードが速くなる、大学教授をプライミングするとフーリガン(サッカーの試合会場で相手チームなどに対し暴力的な言動を行う集団)をプライミングした際よりもクイズの成績が良い、ヒーローをプライミングすると援助行動を行いやすくなる、などにわかには信じられないような報告もあったりします。