感情の体験に関する理論は、抹消起源説や中枢起源説が有名ですが、その後登場したシャクターとシンガーの2要因理論も感情に関する研究の歴史の中で、重要な説となっています。
この説では、情動が生理的喚起とそれに対する認知的評価の2つの要因で生起されると述べられています。
シャクターとシンガーは情動の生起に関する以下のような実験を行いました。
まず彼らは実験参加者を病院に集め、参加者に注射をした後待合室に待機させ、サクラとして失礼な態度をとる看護師を登場させました。この際、実験参加者を以下の3グループに分け、
A:ビタミン剤と称してアドレナリンを注射する
B:ビタミン剤と称して生理食塩水を注射する
C:アドレナリンを注射した後、注射によって生理的な興奮が起きることを説明される
実験終了後に怒りをどれくらい感じているのか評価してもらい、それぞれのグループを比較しました。
その結果、BとCのグループに比べて、Aのグループの実験参加者では怒りの情動が有意に高く見られたのです。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか?
2要因理論に基づいて考えると、Aのグループはアドレナリンによる興奮(生理的喚起)を、サクラの看護師の失礼な態度によるものだと思い(認知的解釈)、怒りの感情が現れたのだと思われます。一方Bのグループはそもそもアドレナリンを注射されていないため、そもそも生理的喚起が起こらず、Cのグループは生理的喚起は起こっているものの、それが注射によるものだとわかっていたため、怒りを経験しなかったのだと解釈できます。
この実験の結果を踏まえて、シャクターとシンガーは生理的覚醒とそれに対する認知的解釈が主観的感情の経験に必要だという2要因理論を提唱しました。この理論は、キャノン=バード説(中枢起源説)によって下火になっていたジェームズ=ランゲ説(抹消起源説)を再評価することにもなりました。
吊り橋効果と2要因理論
シャクターとシンガーの2要因理論に関する有名な理論として、吊り橋効果が挙げられます。吊り橋効果は、本来吊り橋という不安定な場所にいることで起こっている動悸を、一緒にいる人に対して魅力を感じているためだと錯覚してしまうという現象です。これは、本来吊り橋にいることで引き起こされているドキドキ(生理的喚起)を、一緒にいる人に魅力を感じているからだと認識してしまう(認知的解釈)ということによって引き起こされています。このように本来の要因と異なる解釈を行ってしまうことを誤帰属と言います。
なお、吊り橋効果は追試などで再現性が確認できなったことなどから、信頼性の低さが指摘されています。
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