学習性無力感

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以前の記事で抑うつ障害(というより気分障害全体)のよくある原因としてストレスがホルモンに与える影響に注目しました。今回は抑うつ障害の心理学的な要因の説明にも用いられている、学習性無力感の話をしていきたいと思います。

 

学習性無力感は1967年、セリグマンという心理学者が提唱しました。

学習性無力感の学習心理学の流れで研究されたものですが、現在では帰属理論の考えも取り入れられています。

 

学習心理学では刺激や行動と、それによる結果に注目しています。簡単に言うと、なんらかの刺激を受けて自分の行動がなんらかの結果を引き起こし、それが自分にとって良い結果ならその行動の生起頻度は上がり、悪い結果なら行動の生起頻度は減少していきます。

 

例えば、自分の部屋にいて「暑いと感じる」(刺激)と、「クーラーをつける」(反応)という行動をして、「涼しいと感じる」という結果を得るわけです。するとまた別のときに「暑いと感じた」らまた「クーラーをつける」ようになります。私たちは慣れてしまっているので、ぴんとこないかもしれませんが、エアコンについて認識していない子どもでも、「クーラーをつける」行動が「涼しいと感じる」という結果を引き起こしているんだなと、何回か繰り返していると気づいてきます。

 

しかし、クーラーが壊れていたらどうでしょう。何回ボタンを押しても涼しい風が出てきません。しばらくは押し続けるかもしれませんが、何度やってもだめならエアコンをつけるのをあきらめ、暑いのを我慢するでしょう。

 

このように、学習性無力感とは、何かストレスとなる刺激を受けたり、ネガティブな体験をして、それが自分では避けたり、対処したりすることができないという状況が続くと、無力感が形成されます。そして、たとえ対処できるレベルの体験になっても対処しなくなるというものです。

 

勉強が苦手な子どもでも、最初は頑張って勉強していたのですが、いくら勉強してもテストの点数が上がらないと次第に勉強しなくなります。それだけでなく新しく勉強する科目でも「どうせ無理だから…」と言って勉強しなかったり、新しい単元に入ってもみんなに追いつこうとしなくなってしまいます。これも勉強したことによる成功体験がなかったため、学習性無力感に陥っています。

 

 

ですが、同じような体験をしても、人によって抑うつ的になるかならないかというのは様々ですよね。これはなぜでしょうか?

 

実はそのストレス体験の原因をどのように捉えるか変わってきます。

 

人によってネガティブなイベントがあってもその捉え方が違い、それには「内的-外的」、「安定-不安定」、「全体的-特殊的」の3つの指標があります。

 

内的-外的というのは原因が自分にあるのか、他者からの影響や運など自分以外にあるのかという認識の次元です。

安定-不安定は時間的な安定性についての認識で、安定的と認識しているときは、同じ体験をしたら同じ結果を得るという期待が強くなります。

全体的-特殊的はそのネガティブな刺激がこの状況だけなのか、他の状況でも起こりうるものかという認識です。

 

ストレス体験の原因を内的、安定的、全体的と認識すると、より学習性無力感に陥りやすくなります。

 

具体的には仕事で上司に怒られた体験をしたとしても、それは運が悪かっただけ(外的で不安定)で別の仕事なら怒られないだろう(特殊的)と思っている人は学習性無力感になりにくいですが、自分に能力がないせいだと感じ(内的で安定)、別の仕事でも怒られるだろう(全体的)と思っている人は学習性無力感に陥りやすいです。

 

重要なのは、このような内的とか安定的な原因いうのは、その人自身の認識であって事実とは異なる場合があります。上に挙げたような傾向のある人は、無意識に過度の一般化をしており、何をやってもどうせだめだと思っているかもしれません。

 

一度、自分の認識について振り返ってみてもいいかもしれませんね。