DSMとICD
体の病気と同じく、精神疾患に関しても診断の基準となる指標が必要です。現在、世界で広く用いられている診断基準として、DSMとICDが挙げられます。
DSMは正式名称を「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害の診断・統計マニュアル)」といい、アメリカ精神医学会(APA)が作成しています。
DSMは現在2013年に出版された第五版が用いられており、日本語訳も2014年に出版されています。
DSMは精神障害の国際的な分類基準として用いられています。学問的な研究や治療のガイドラインに用いられることを目的に作成されました。
ちなみに、DSMはDSM-Ⅳまではローマ数字表記でしたが、DSM-5からはアラビア語表記になっています。これは、アラビア数字の方が5.1や5.3といった小数点をつけることができるため、細かい変化で修正版を出しやすいためです。
ICD
ICDは「International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(世界保健機関による疾病及び関連保健問題の国際疾病分類)」といい、世界保健機関(WHO)が作成しています。日本の行政機関ではこちらが用いられています。
現在の最新版は2019年に出版された第11版です。
ICDは各国の病気や死因の統計に関してまとめてあり、国際的な比較に用いられたりすることもあります。発展途上国でも使えるように複雑になりすぎないようになっています。
ここまでのそれぞれの特徴をまとめると、
といったことが挙げられます。
また、DSMとICDでは判断基準の複雑さにも違いがあります。一例としてアルコール依存症の診断基準をそれぞれ載せておきます。
1年間に以下の2つ以上があてはまる。 (2-3: 軽度、4-5: 中等度、6-: 重度)
・意図したより大量、または長期間に使用
・アルコールの摂取量を減らしたり制限しようとするが成功しない
・アルコールを得たり、使用したり、そこから回復するために多くの時間を費やす
・飲酒に対する渇望
・反復的な使用により、職場・学校・家庭で責任を果たせない
・社会的、対人的な問題が起き、悪化しているにもかかわらず使用を続ける
・私用のために社会的、職業的、娯楽的活動を放棄したり縮小している
・身体的に危険な状況でも使用を反復
・身体的、精神的問題が悪化していると感じていても使用を続ける
・耐性
・離脱症状
1年間に以下の3つ以上があてはまる。
・飲酒したいという強烈な欲求、強迫感(渇望)
・飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して制御することが困難(抑制
喪失)
・離脱症状
・耐性の存在
・長い時間飲酒したり、酔いから醒めるのに1日の大部分の時間を消費して
しまう、飲酒以外の娯楽を無視する(飲酒中心の生活)
・精神的または身体的問題が飲酒によって持続的または反復的に起こり、
悪化していることを知っているにもかかわらず飲酒を続ける(負の強化へ
の抵抗)
このように、学問的な研究という目的もあるDSMの方が診断項目も多く、逆にICDの方は比較的少ないことも違いの一つです。