精神疾患や薬の作用・副作用を見ていると様々な症状の名前がありますが、その中には
「せん妄」と「妄想」という似たような響きの言葉があります。
これら2つは似て非なるものなのですが、その説明はできるでしょうか?
実際に医療機関や臨床場面で働いている人は知っているかもしれませんが、僕みたいに勉強中の学生の方は曖昧になっていると思います。
今回はこれら2つの定義について書いていこうと思います。
妄想
妄想とは、現実的にはあり得ないような信念のことをいいます。ここでいう信念とは本人にその理論が常識的に考えて破綻していることを伝えても認めないものをいいます。
よく日常生活でもあり得ないような想像をしている人に対して「そんなの妄想だよ」といったりしますね。こんな風に「現実にはあり得ないことを考える」といったニュアンスで妄想という言葉の定義を理解している人も多いでしょうし、この認識は病的な原因による妄想にも当てはまるところがあります。ただ多くの場合、本人もあり得ないことだとわかって想像しているので、精神医学の診断的には妄想ではありません。
それが現実的にはあり得ないことをどんなに論理的に説明しても理解しないものを妄想と呼びます。
例えば、何か物音がしただけで自分が命を狙われていると思い部屋から出ない、自分が高貴な血筋の人間だと確信してそのようにふるまうなどをします。そして「そんなことする人いないよ」とか言ったり、家系図を見せたりしても「でも実際に殺されそうなんだ」、「その家系図は偽物だ」と言ってどんなに説得しても信じません。
ただ実は妄想の定義は比較的あいまいで、実際に精神疾患が原因で引き起こしている妄想でも、患者さんにそれがあり得ないことであると伝えると、「確かにあり得ないですね」と認めるケースもあるそうです。ですので、誤った確信がなければ妄想とは絶対に言えない、と断言することはできません。
妄想症状はいろんな精神疾患で見られますが、代表的なのは統合失調症でしょう。
ちなみに、妄想の内容にはいくつか種類があります。
いくつか挙げると、他人から危害を加えられると思いこむ被害妄想、自分の能力や価値を過大評価する誇大妄想、反対に過小評価する微小妄想、自分以外に支配されていると感じる非影響妄想などに分けられます。また、変わったものだと妊娠していると信じ込む妊娠妄想などもあります。
せん妄
せん妄について簡単に説明すると、身体物理的要因によって引き起こされる意識混濁や体験、精神、行動の異常のことをいいます。
症状は大きく興奮や幻覚、錯乱、徘徊、不眠など活動が活発になるものと、無気力、無表情、記憶力低下など活動が低下するものの2つに分けられます。ただ、これらはどちらか片方の症状だけが現れるというわけではなく、混ざって現れることもあります。
また、せん妄の症状として妄想が見られることもあります。
せん妄は身体的・物理的影響による脳の機能不全が原因で引き起こされます。
せん妄を引き起こす直接的な要因となりうるものとしては脳血管障害などの脳神経の疾患、脳神経に作用する薬物、アルコール依存の離脱症状などが挙げられます。
また、高齢者やアルツハイマー型認知症発症者はそれ自体が原因になることはありませんが、せん妄症状が見られやすい状態といえます。
まとめ
妄想…現実ではありえないことを確信する
せん妄…脳の機能不全によっておこる意識混濁などの症状
このように覚えておきましょう。